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金沢地方裁判所 昭和27年(ワ)490号 判決

原告 報国土地株式会社

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「別紙物件目録記載の土地に生立する立木に対する自作農創設特別措置法第三十条に基く買収の対価はこれを別表(一)記載の額に増額する。被告は原告に対し金五百六十四万五千八百三十六円五十五銭並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  原告会社は昭和十二年二月十八日、(1)山林、保安林の拓植事業、(2)土地、建物の取得、利用、賃貸、(3)資金の融通、(4)種苗の育成、(5)農業の経営、助成、(6)前各号に関聯する一切の事業を目的として設立せられた株式会社である。

(二)  別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)はもと原告の所有に属していたが、昭和十九年に旧陸軍において買収するところとなつた。しかし原告は昭和二十四年六月政府より戦時補償特別措置法第六十条に基いてその返還を受けることとなり、同月八日右代金を支払つて再び本件土地の所有権を取得し、同年七月二十一日その所有権移転登記手続を了した。

(三)  ところが訴外石川県農地委員会は同月二日自作農創設特別措置法第三十条第一項に基き本件土地について立木を除外して未墾地買収計画を樹立し、訴外石川県知事は右買収計画に基き同年十月三日附買収令書により本件土地を立木を除外して買収した。

(四)  次いで訴外石川県農業委員会は昭和二十七年五月本件土地に生立する立木全部(以下本件立木という)について買収計画を樹立し、訴外石川県知事は右買収計画に基き同年十月十四日附で本件立木を別表(二)記載の対価により買収し、原告は同月十六日右買収令書の交付を受けた。

(五)  しかしながら右買収の対価は真実を無視し著しく低廉であつて不当である。本件立木の松及びアカシヤその他の各総石数については争わず、松の単価及び対価は右買収対価をもつて相当とするけれども、アカシヤその他の単価は後記のごとく一石当り金三百円を相当とし、その買収対価は別表(一)記載の額が適正である。

(六)  本件立木のアカシヤ、その他の原告主張右買収対価の算定は昭和二十五年十月二十一日公布農林省告示第三二七号による。即ちアカシヤその他は市場価格を生ずるものであるからその幹材積に譲渡単価を乗じた額と、末木、枝条、樹根等の価格を合算したものである。譲渡単価は逆算法に基き薪丸太、木炭価格より企業利益金、企業資金に対する利子、山出運搬費、伐採費、集材造材費、結束費等の諸経費を控除して算出した。

(1)  市場価格は金沢商工会議所、金沢、金石、大野、向粟ケ崎における卸価格を調査し、これを平均査定して一束当り単価三十二円とした。

(2)  生産費は

(イ)  伐採、集材、造材、結束費は男子人夫一日当り賃金を内灘村(産地)の実情により三百三十五円とし、一人当り四十束の能力あるものとした。

(ロ)  繩代は金沢市内の小売価格一貫匁三十三円とし、一束の結束に二十匁を要するものとする。

(ハ)  山出運搬費は女子人夫一日当り賃金を内灘村(産地)の実情調査により二百四十円とし、山より部落まで〇・五粁の距離ありとして一日十五回、一回四束を運搬するものとした。

(ニ)  運賃は内灘村(産地)は各部落共全部消費地であつて、他に運送する必要がないためこれを不要とする。

(ホ)  雑費は人件費、物品費、酒肴慰安費、傷病手当費、公租公課等とし、地方の実情を考慮して一束当り一、二四五円とした。

(3)  企業利益金は投資金額に対する五分とする。

(4)  企業資金利子は年七分とし、六ケ月で回収するものとする。

(5)  利用率は市場価格を生ずる材積に枝条、樹根を含まず、その材積は二割に相当するものがあり、地方民はこれを採取して燃料に供している実情にあつて、その価格の算定は困難であるが、相当の価格を有するものであるから一〇〇%とする。又アカシヤの樹根は伐採後再発芽するもので新たに植林する必要なく、買収当時の植林費は一町歩当り金十五万円を要するから右樹根の価値は多大である。

以上を基礎として算定すると、別表(三)記載のごとく薪一束当りの譲渡単価は金十五円となり、一石当りのそれは二十束を一石と換算して金三百円となる。

(七)  そこで原告は本件立木の前記買収対価を不服とし自作農創設特別措置法第三十四条、第十四条に基き被告に対し本件立木の買収対価を別表(一)記載の額に増額し、右増額の買収対価金五百六十四万五千八百三十六円五十五銭並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

(一)  原告主張事実中、(一)の原告会社が昭和十二年二月十八日設立せられた株式会社であること並びに(二)乃至(四)の各事実はいずれも認めるが、(一)の原告会社の目的事業は不知、その余の主張事実はすべてこれを否認する。

(二)  訴外石川県知事は本件立木を別表(二)記載の対価により買収したものであるが、本件立木中、アカシヤ其の他の右対価は自作農創設特別措置法第三十一条、同法施行規則第十五条、自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令第五条、同政令施行令第十四条、昭和二十五年十月二十一日公布、農林省告示第三百二十七号立竹木等対価算定方法に基き昭和二十六年一月二十二日農林次官通達二六農地第一三二号「立竹木対価算定に関する件」に拠り、本件アカシヤその他は市場価格を生ずるものとして右告示に定める次の算定公式によつて譲渡単価を算出しこれを計算の基礎としたものである。

x=f(A/(1+nP+γ)-B)

x…………算定すべき立木幹材積の買収単価

f…………利用率

A…………素材又は薪の平均市場単価

γ…………企業利益率

n…………投下資本の回収期間

P…………利率(月利)

B…………素材又は薪の単位材当りの生産費の合計

(三)  本件アカシヤその他の譲渡単価(x)の算出の基礎条件の数値は次のとおりに定めた。

f (利用率)を〇・七とする。

A  (薪の平均単価)を一束について二十八円とする。(市内薪卸業者の仕入価額による)

γ (企業利益率)を〇・〇四とする。

n (投下資金の回収期間)を八ケ月とする。

P (月利率)を十二分の〇・〇七とする。

B  (生産費単価)を一束当り十九円二八五とする。(この細目の基礎は別表(四)のとおりである)

(四)  右基礎条件の数値を前記算定公式にあてはめて計算すると、本件アカシヤその他の譲渡単価は薪一束当り金四円五十四銭となる。しかして薪二十束が一石に相当するから一石当りの譲渡単価は金九十円八十銭となる。

(五)  本件アカシヤの末木、枝条、樹根等は事実地元民が日常燃料に利用しているが、アカシヤには棘があり、殊に末木、枝条にそれが著しく、余剰労力による遺利の収集にすぎず、到底商品としての価値がない。

(六)  従つて本件立木の買収対価は別表(二)記載の額が相当であつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

(立証省略)

理由

本件土地がもと原告の所有に属していたが、昭和十九年に旧陸軍において買収するところとなつたこと、しかし原告が昭和二十四年六月政府より戦時補償特別措置法第六十条に基いてその返還を受けることとなり、同月八日右代金を支払つて再び本件土地の所有権を取得し、同年七月二十一日その所有権移転登記手続を了したこと、訴外石川県農地委員会が同月二日自作農創設特別措置法第三十条第一項に基き本件土地について立木を除外して未墾地買収計画を樹立し、訴外石川県知事が右買収計画に基き同年十月三日附買収令書により本件土地を立木を除外して買収したこと、次いで訴外石川県農業委員会が昭和二十七年五月本件立木について買収計画を樹立し、訴外石川県知事が右買収計画に基き同年十月十四日附で本件立木を別表(二)記載の対価により買収し、原告が同月十六日右買収令書の交付を受けたこと、本件立木の松及びアカシヤ、その他の各総石数が別表(二)記載のとおりであること、並びに松の単価及び対価は同表記載の単価対価をもつて相当であること、以上の各事実はいずれも当事者間に争がない。

次に原告は本件立木中アカシヤ、その他の右買収単価一石当り金九十円八十銭を不当とし金三百円を相当とすると主張するのでこの点についてみると、本件アカシヤ、その他の右買収単価金九十円八十銭が不当であり原告主張の額が相当であると認めるべき資料が存しない。成立に争のない甲第一、二号証の各記載並びに証人林一平及び松下茂の各証言をもつて右事実認定の資料とするに足りない。

成立について争のない乙第一号証、第二号証、第六号証、第八号証の各記載に証人高村勝二(第一、二回)、牧保及び松下茂の各証言によれば、訴外石川県農業委員会は自作農創設特別措置法第三十一条、同法施行規則第十五条、自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令第五条、同政令施行令第十四条、昭和二十五年十月二十一日公布、農林省告示第三百二十七号立竹木等対価算定方法に基き、昭和二十六年一月二十二日農林次官通達二六農地第一三二号「立竹木対価算定に関する件」に拠り、本件アカシヤその他は市場価格を生ずるものとして右告示に定める次の算定公式に後記基礎条件の数値を決定してあてはめ、薪一束の譲渡単価金四円五十四銭を算出し、薪二十束を一石に換算(この点当事者間に争がない)して前記本件アカシヤその他の一石当りの単価金九十円八十銭及び別表(二)記載の対価を決定したものであること、本件アカシヤその他の立木はアカシヤを主体として約八十%占め、その樹種、立地条件に鑑みて右譲渡単価決定の基礎となつた数値がいずれも相当であること、並びに本件アカシヤの木の末木、枝条等は事実地元民が日常燃料として利用しているけれども、アカシヤには棘があり、殊に末木、枝条にそれが著しく商品としての価値は極めて低く、本件アカシヤその他の対価を決定するに際り参酌しないのを相当とすること、並びに訴外石川県知事が右訴外石川県農業委員会の定めた買収対価により本件立木を買収したことをそれぞれ認めることができる。(右認定に反する証人林一平及び松下茂の各証言は信用しない)

x=f(A/(1+nP+γ)-B)

(訴外石川県農業委員会決定の数値)

x…………算定すべき立木幹材積の買収単価

f…………利用率                0.7

A…………素材又は薪の平均市場単価       2,800円

γ…………企業利益率              0.04

n…………投下資本の回収期間          8月

P…………利率(月利)             0.07/12

B…………素材又は薪の単位材当りの生産費の合計 19,285円

(この数値の細目の基礎は別表(四)のとおりである。)

以上のとおりであるから当裁判所は本件アカシヤその他の買収対価の単価一石当り金九十円八十銭及びこれに材積石数を乗じて算出される別表(二)記載の対価は相当の額であると認める。

そうすれば本件立木の買収対価は別表(二)記載の額をもつて相当であるといわねばならない。従つて原告の本訴請求は理由がないこととなるから失当としてこれを棄却すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 観田七郎 柏木賢吉 吉田誠吾)

(目録省略)

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